井田茂
『惑星学が解いた宇宙の謎』
(洋泉社・新書y)

 5月23日に出たばかりの、ということはつまり、(現在のところ)日本で最新の惑星学の現状を概観した本と言える。
 概論だけに、ほんのさわり程度ですこし物足りないが(新書だから当然である)、まず宇宙論の歴史と到達点がしめされ、しかる後、宇宙のなかでの太陽系の形成→地球の誕生→他の地球型惑星の誕生→巨大惑星の誕生→太陽系外の惑星の発見→惑星学の今後の展望と論が進む。つまり、大から小へといわゆる水道方式になっているので、非常に理解しやすい。

 百花繚乱の宇宙論、太陽系形成論の歴史、天体物理学の進展が観測手段の進化と相関的であることなど、古代史や邪馬台国論と考古学その他の技術の進展の関係に似ていて興味深い。

 著者の立場はいわゆる「平民論」。太陽系の形成→地球の誕生→知的生命体=人間の誕生は、ごくふつうの現象という立場だ。これに対して「選民論」が10年ほど前にもてはやされた。ソウヤーがよく描くような「宇宙の人間原理」と呼ばれる立場である。
 私は松井孝典の著作を、一時期集中的に何冊か読んだことがあるのだが、本書には一回言及されるだけ。そういえば松井は「選民論」だった。

 太陽系外惑星の発見が、観測方法の進展につれずいぶん成果を上げていること本書ではじめて知った。太陽系とはかなり異質なその世界像はとても謎めいていて魅惑的。今後どのような一般化がなされて太陽系と他星系を統一する形成論が「平民論」的に生み出されるのか、楽しみ。

        

ヘテロ読誌2002年5月 掲載】

inserted by FC2 system