半村良『セルーナの女神』(角川文庫、79)読了。
直近に読んだ『夢の底から来た男』(角川文庫、79)がとてもよかったので、引き続いて読んでみた。
「わがホモンクルス」
「巨大餃子の襲撃」
SFはSFなんだが、所謂馬鹿SF、楽屋落ちSFの類。どうもSF的アイデア(というよりも超常現象)を持ち出すと、とたんに筆にしなやかさがなくなり、単調になってしまう傾向があるんだよな著者は。それは長篇にも見られる傾向で、「虚空王……」がその典型。
「汗」
「マンションの女」
は風俗小説。性にまつわる風景が描かれている。いわば古めの純文学の味わいで、とりわけ「汗」は谷崎なみの傑作ではないか。
しかしこの2篇が有する「リアリティ」は若い読者にはわからないかも。私も20代で読んでいたら判らなかっただろう。
「子犬」
「奸吏渡辺安直」
「伊勢屋おりん」
は江戸時代の歴史小説もしくは時代小説。芥川や菊池寛の歴史小説を彷彿とさせる「近代的解釈」がとても面白い。
「おなじみの夢」
「セルーナの女神」
は、ともに一種SF私小説で著者と思しい作家の「私」が主人公。
「おなじみの夢」は本集中の白眉というべき傑作。主人公の作家が、夢のなかで繋がったあの世の世界を往還する。あっちの世界の構築の、奇妙なリアリティが実によい。
「セルーナ……」では、主人公の作家のもとに、アフリカの現在のボツアナからマンダ族の男が二人訪ねてくる。あんたが手に入れる女神の像を返してほしいと迫るのだが、作家には心当たりがない。時間の矢の方向をずらすことでふしぎなセンス・オブ・ワンダーを醸し出している。
というわけで冒頭の2篇を読んだ段階では、うーん、と先行きが危ぶまれたのだが、結果的に満足できる1冊だった。著者の芸風の幅広さがよく判るバラエティにとんだセレクションで、半村良展覧会のような趣き。
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