眉村卓さんの最新作品集『新・異世界分岐点』(出版芸術社刊)はとうに読み終わっているのですが、うっかり『遺す言葉 その他の短篇』(早川書房刊)を読み始めたら、止まらなくなってしまいました(といっても私の読書スピードでは一日に読める分量は限られていまして、ようやく半分超というところなんですが)。 『新・異世界分岐点』の感想は今の本を読み終わってからゆっくりまとめたいと思います。
それはさておき、『新・異世界分岐点』巻頭の「血ィ、お呉れ」は、著者の平野区の社宅時代の怨念に満ちた(笑)小説です。 この平野区というのは、今でこそアジア的国際都市の雰囲気ですが、大阪市内では珍しく空襲を免れた地区ということで、建物が焼けなかったばかりか、その結果旧い社会関係や人間関係も温存されてしまった地帯でもありました。 眉村さんが住んでおられた60年代頃まではそれは色濃く残存していたはずで、共働きの眉村夫妻が朝連れ立って出勤すると奇異の目で眺められ、それがかなりのフラストレーションであったことが、この短篇を読むとひしひしと伝わってきます。
実は先日の畸人郷例会に山沢晴雄先生もいらっしゃってまして、また私が調子こいてエイやん街道の顛末から拡がって上記平野区時代の眉村さんの話を吹聴していましたら、山沢先生が、眉村さんと一緒に平野へ帰ったことがあるとの昔話を披露してくださったのでした。KTSC(関西探偵作家クラブ)の会合の帰り、山沢先生も平野に住んでおられ、たまたま一緒に国鉄で帰ったことがあり、眉村さんから名刺をもらった。その名刺は本名の村上卓児だったとのお話でした。眉村さんがペンネームをまだ使ってなかった時代の話なんでしょうか? 会社の名刺だったかどうか聞こうと思ったんですが、聞きそびれてしまいました。
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