愈々大晦日です。今年も早かった。
邦光史郎『藤原氏の謎 最長・最大の血脈はいかに成立したか』(カッパブックス、93)読了。 本書が今年最後の読了書となりました。
ということで、今年の読書記録を確認しておきます。
≪2006年度読了冊数≫ 小説・海外 20冊 小説・日本 41冊 非小説 29冊 計 90冊
小説・海外>20冊 1月 アーシュラ・K・ル=グウィン 『なつかしく謎めいて』谷垣暁美訳(河出書房、05) エドモンド・ハミルトン 『眠れる人の島』中村融編(創元文庫、05) 2月 野田昌宏編 『お祖母ちゃんと宇宙海賊 スペース・オペラ名作選U』(ハヤカワ文庫、72) 3月 エリン・ハート 『アイルランドの柩』宇丹貴代実訳(ランダムハウス講談社文庫、06) グレッグ・イーガン 『ディアスポラ』山岸真訳(ハヤカワ文庫、05) H・G・ウェルズ 『モロー博士の島』中村融訳(創元文庫、96) ジーン・ウルフ 『デス博士の島 その他の物語』浅倉久志・柳下毅一郎・伊藤典夫訳(未来の文学、06) 4月 ロード・ダンセイニ 『最後の夢の物語』中野善夫・安野玲・吉村満美子訳(河出文庫、06) 5月 ロード・ダンセイニ 『時と神々の物語』中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子訳(河出文庫、05) ロード・ダンセイニ 『魔法の国の旅人』荒俣宏訳(ハヤカワ文庫、82) 6月 若島正編 『ベータ2のバラッド』(未来の文学、06) マイクル・スワンウィック 『グリュフォンの卵』小川隆・金子浩・幹遙子訳(ハヤカワ文庫、06) 7月 カート・ヴォネガット・ジュニア 『モンキー・ハウスへようこそ〔1〕』伊藤典夫・浅倉久志・吉田誠一訳(ハヤカワ文庫、89) カート・ヴォネガット・ジュニア 『モンキー・ハウスへようこそ〔2〕』伊藤典夫・吉田誠一・浅倉久志訳(ハヤカワ文庫、89) 8月 オリーヴ・シュライナー 『アフリカ農場物語(上)』大井万里子・都築忠七訳(岩波文庫、06) 9月 ブライアン・W・オールディス 『マラキア・タペストリ』斎藤数衛訳(サンリオ文庫、86) アイリーン・ガン 『遺す言葉、その他の短篇』幹遙子訳(早川書房、06) 10月 11月 ロバート・E・ハワード 『黒い海岸の女王 新訂版コナン全集1』宇野利泰・中村融訳(創元文庫、06) 12月 ロバート・E・ハワード 『魔女誕生
新訂版コナン全集2』宇野利泰・中村融訳(創元文庫、06) グレッグ・イーガン 『ひとりっ子』山岸真編訳(ハヤカワ文庫、06)
小説・日本>41冊 1月 2月 林譲治 『ストリンガーの沈黙』(ハヤカワJコレクション、05) 高井信 『おかしなおかしな転校生』(青い鳥文庫、05) 3月 半村良 『セルーナの女神』(角川文庫、79) 半村良 『夢の底から来た男』(角川文庫、79) 4月 藤野恵美 『怪盗ファントム&ダークネス EX-GP3』(カラフル文庫、06) 藤野恵美 『七時間目の占い入門』(青い鳥文庫、06) 大石英司 『沖ノ鳥島爆破指令』(Cノベルズ、05) 5月 藤野恵美 『妖怪サーカス団がやってくる!』(学研エンタティーン倶楽部、06) 6月 7月 高野史緒 『架空の王国』(ブッキング、06) 小松左京+谷甲州 『日本沈没 第二部』(小学館、06) 高橋たか子 『彼方の水音』(講談社文庫、78) 高橋たか子 『共生空間』(新潮社、73) 森万紀子 『黄色い娼婦』(文芸春秋、71) 河野典生 『カトマンズ・イエティ・ハウス』(講談社、80) 眉村卓 『いいかげんワールド』(出版芸術社、06) 眉村卓 『乾いた家族』(ケイブンシャ文庫、93) 眉村卓 『素顔の時間』(角川文庫、88) 8月 眉村卓 『白い小箱』(角川文庫、83) 眉村卓 『強いられた変身』(角川文庫、88) 眉村卓 『還らざる城』(旺文社文庫、88) 眉村卓 『それぞれの曲り角』(角川文庫、86) 眉村卓 『出張の帰途』(ノン・ポシェット、90) 眉村卓 『月光のさす場所』(角川文庫、85) 眉村卓 『駅にいた蛸』(集英社、93) 牧野修 『月光とアムネジア』(ハヤカワ文庫、06) 9月 眉村卓 『新・異世界分岐点』(出版芸術社、06)
10月 小川一水 『天涯の砦』(ハヤカワJコレクション、06) 平谷美樹 『銀の弦』(中央公論新社、06) 北野勇作 『空獏』(ハヤカワJコレクション、05) 川端裕人 『せちやん 星を聴く人』(講談社、03) 草上仁 『文章探偵』(早川書房、06) 11月 東野司(小松崎茂原作) 『ProjectBLUE地球SOS(1)』(ハヤカワ文庫、06) 道尾秀介 『向日葵の咲かない夏』(新潮社、05) 倉阪鬼一郎 『十人の戒められた奇妙な人々』(集英社、04) 倉阪鬼一郎 『下町の迷宮、昭和の幻』(実業之日本社、06) 三津田信三 『作者不詳 ミステリ作家の読む本』(講談社ノベルズ、02) 三津田信三 『蛇棺葬』(講談社ノベルズ、03) 三津田信三 『百蛇堂 怪談作家の語る話』(講談社ノベルズ、03) 三津田信三 『シェルター 終末の殺人』(東京創元社、04) 栗本薫 『ネフェルティティの微笑』(角川文庫、86) 12月 宇月原晴明 『黎明に叛くもの』(中央公論社、03)
非小説>29冊 1月 稲葉振一郎 『「資本」論 取引する身体/取引される身体』(ちくま新書、05) 橋本治 『乱世を生きる 市場原理は嘘かもしれない』(集英社新書、05) 八柏龍紀 『「感動」禁止 「涙」を消費する人びと』(ベスト新書、06) 正高信男 『考えないヒト ケータイ依存で退化した日本人』(中公新書、05) 森達也 『悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷』(岩波新書、05) 菅野聡美 『〈変態〉の時代』(講談社現代新書、05) 四方田犬彦 『「かわいい」論』(ちくま新書、06) 2月 3月 中島道義 『日本人を<半分>降りる』(ちくま文庫、05) 4月 的場
昭弘 『ネオ共産主義論』(光文社新書、06) 中川裕 『アイヌの物語世界』(平凡社ライブラリー、97) 5月 新城
カズマ 『ライトノベル「超」入門』(ソフトバンク新書、06) 高原基彰 『不安型ナショナリズムの時代』(新書y、06) 6月 丸橋賢 『退化する若者たち 歯が予言する日本人の崩壊』(PHP新書、06) 鈴木
邦男 『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書、06) 7月 村瀬学 『自閉症――これまでの見解に異議あり!』(ちくま新書、06) 小松左京 『SF魂』(新潮新書、06) 小松左京 『天変地異の黙示録』(パンドラ新書、06) 福吉勝男 『使えるヘーゲル 社会のかたち、福祉の思想』(平凡社新書、06) 8月 9月 宮本忠雄 『言語と妄想 危機意識の病理』(平凡社ライブラリー、94) 松田忠徳 『大相撲大変』(祥伝社新書、06) 10月 片田珠美 『薬でうつは治るのか?』(新書y、06) 11月 玄田有史・
曲沼美恵 『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎文庫、06) 金井美恵子 『目白雑録』(朝日新聞社、04) 金井美恵子 『目白雑録2』(朝日新聞社、06) 樋口康彦 『準ひきこ森(もり) 人はなぜ孤立してしまうのか?』(講談社+α新書、06) 板倉昭二 『「私」はいつ生まれるか』(ちくま新書、06) 中沢新一 『神の発明 カイエ・ソバージュ(4)』(講談社選書メチエ、03) 12月 赤松明彦 『楼蘭王国 ロプ・ノール湖畔の四千年』(中公新書、05) 邦光史郎 『藤原氏の謎 最長・最大の血脈はいかに成立したか』(カッパブックス、93)
今年は何といいましても眉村卓の新作長篇が読めたこと、これに尽きるでしょう。 「いいかげんワールド」は、管見によれば、読者層をヤングアダルトに絞り込んだライトノベルがあるのなら、逆に中高年層に対象を絞ったライトノベルがありうるのではないか、という一種斬新な試みだったのではないかと思います。 その挑戦は成功しています。本篇には40代以上の社会人経験者にしか分からない、併しその年代者ならば等しく共感できる、一種「さわやかな諦念」といったものが確実にピンナップされていて、「老人文学」という既成語では推し量れない独特の「軽やかなエンターテインメント」に仕上がっていました。発売早々に版を重ねたことからもその試みは支持されたといえます。
ところで、今年「SF」を出版した第一世代は眉村卓のほかには筒井康隆と小松左京しかなかったはずです。眉村長編の好評は、上記内容的な支持とは別に、このような状況とも関連がありそうです。
というのはほかでもありません。私は思うのですが、SFはある意味「いびつに」中高年層に大きな市場を潜在的に有しています。 70年代にSFの隆盛を支えてその後社会人となり忙しくて読書という習慣を失った層です。 この層が今後引退世代となり、どんどん読書人として復帰してくるはずなのです。現在既にその兆しは現れていて、「河出奇コレ」や「国書未来の文学」の好調さはその先駆けといえるように思われます。 しかもなお今後ますます「復員兵」は年年歳歳に復帰してくることはあっても、毫も減少することは考えられません。少なくとも現在の「河出奇コレ」や「国書未来の文学」の部数程度のヴォリュームではすまないはずです。 ところがSF供給者の側、とりわけその中心的存在・先導者(煽動者)であることをいわばベルーフとして「運命」付けられているはずの早川書房に、特に日本作家対応において、そのような動向を見据えての「仕込み」の動きが全く見えてこないのが、まことに歯がゆく残念でなりません。
いったいに、読書の現場から何十年も離れていたら、現在の作家名なんてぜんぜん馴染みがありませんから、何を購入していいのか途方に暮れてしまうに違いありません。私だったら第1世代・第2世代の作家をまず引っ張り出しますけどね。 今このような潜在読者層(から引き揚げてくる復員兵)を一手に引き受けて無競争の旨みを享受しているのが(第二世代の)山田正紀と梶尾真治ではないでしょうか。しかしながら彼らの最近のゆるい作品をみていますと、競争相手がいない弊害を感じないではいられませんね。
別に早川書房でなくてもよいのです。いま第一世代(や第二世代)にいち早く唾をつけて(笑)、長編を書かせるシリーズ(かつての日本SFシリーズの再来)を立ち上げたら絶対成功間違いありません! 各社是非検討していただきたいものです。 来年はそのような企画が、兆しとしてでも見えていたらいいのですが。…… |