「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」を読む。
エムシュ版「家に棲むもの」です(>違います)。
これは「西洋ざしきわらし」の物語ですね。悪戯をしますし、家を繁栄させる(後述)。
目立たないため殆ど透明人間のように他人から注目されることなく生きてきた白髪頭の中年独身独居女性ノーラの家に、ひょんなきっかけで居ついてしまった「ざしきわらし」(当の女性と瓜二つで、同じく透明人間のような中年女性らしい)が、「家に棲むもの」のように居ついて、悪戯をしかけながらも当の女性を「リアル」にするため、(やはり透明人間の初老の)男を家に招き入れる。
結果的に「リアル」化に(生き返らせることに)成功する。日本のざしきわらしは家を繁栄させますが、このざしきわらしは憑いた女性を賦活再生させるんですね。しかしながらリアルになるということは、著者によればどうやら無味無臭ではなくなるということらしい。打算や好奇心、その他もろもろの人間的な感情を回復するからでしょう。
で、その結果これまで家に棲みつくことを(認めているわけではないが)何となく黙認していた(というより殆ど無関心だった)ざしきわらしに対して関心を持ち、「意地悪い表情を浮かべて」介入してくるようになるようです。それを(経験的に)知っているざしきわらしは、そんな事態に立ち至る前に、さっさと荷物をまとめて家を出て行く。さよならだけが人生さ……。
いや哀しくていい話でした。
翻訳で気になったところ。
1)18p1行目「残念無念」は、原文の単語はわかりませんが、コンテキストから類推するに、間投詞的に用いられているように思われる。原義では残念無念なのかもしれませんが、残念無念では前後が繋がりません。汚らしい風体の男に対してノーラが高価なローゼンタールのカップを出したことに対する意外感の表現なので、ここは「なんとまあ」と意訳するべきでは。
2)11p10行目「長年住んでいて、無事だったのに」も、「無事」ではおかしい。長年住んでいてこれまで変な現象は起こらなかったのに、の意味だから、「長年住んでいて、何事も無かったのに」がいいのでは。
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