黙示録
白昼の青空に、突如、直視できないほどまばゆく輝く〈星〉が出現し、人々を驚かせた。
そのニュース映像を、范もまた《退役宇宙開拓者の家》のベッドから凝視めていた。
《退役宇宙開拓者の家》に収容された元・宇宙開拓者たちは、現役の宇宙開拓者からは敗残者として蔑視されていた。過酷な環境で精神に失調をきたしたり、事故で身体を損壊し地球へ送還された者たちが、宇宙事業不適格者の烙印を押されて、此処に収容されているのだった。
范も、あの事故に遭遇するまでは一等巡視員として最前線で活躍し、将来を嘱望もされていたのだ。が、今では意識も混濁しがちで、ただ「あの現象を再びこの目で見たい」という執念にも似た意志が、彼を今日まで生きながらえさせてきた。
そしていま、范のうすれゆく意識に、あの事件が甦っていた……
○
巡視艇の重力感知器が、強大な重力異常を捉えた。
范はいぶかった。
(この宙域に、これほどまでに顕著な重力井戸はなかったはずだ)
というより、さっきまではなかった。
今とつぜん出現した――そんな感じだった。
范は巡航設定を解除し、重力異常点へとコースを変更した。
二時間後、巡視艇は肉眼で確認できる距離まで接近した。
(これは?)
范は茫然としていた。
(……穴だ!)
宇宙空間に円い穴があいていた。直径5メートルほどの真円である。ブラックホールの類ではない。それは明らかに人工の何かだった。ブラックホールではないから、周りの時空がその穴に向かって歪み雪崩れ落ちるような現象は起こっていなかった。ただ直径5メートルの穴の断面から垂直に、完全に指向的収束的な直径5メートルの引力ビームが放射されていた。たまたま巡視艇はそのビームの線上を通過したので、異常に気づくことができたようだ。
「これは人工物だ。しかし太陽系から2光年も離れたこんな宙域に、なぜこのような物が存在しているのか?」
少なくとも、人類の現在の技術ではとてもなしえないものであるのは間違いなかった。
(調べなくては!)
彼は決心し、宇宙服に着替え、船外へと飛び出した。
――満天の星くずが、范の前後上下左右でいっせいに輝きをました。
范が接近する。穴のふちに達した。
「何も無い」はずの虚空にぽっかりと、〈穴〉が穿たれていた……。
それが范にははっきりと知覚できた。そしてその真円上にだけ、「引力」が存在した。
覗き込むと、それがとてつもなく深い深い坑道であることが、はっきりと感知できた。
范は〈穴〉に躍り込んだ。引力に引かれて范の体が「落下」していく。ヘッドライトの明かりは何も捉えない。穴なのに側壁がないかのようだ。全く光を反射しない漆黒の中を彼は落ちていく。どこまでも。どこまでも――
いつのまにか時間感覚を喪失していた。それが一瞬だったのか、無限だったのか判然としなかったが、漆黒の彼方に一点の光源を見出して、范は我にかえった。
光の点でしかなかったそれが、次第に次第に膨らんでいく。やがてそれが円で囲われた星海であることが視認できるようになった。
(出口だ!)
范は〈穴〉からポンと吐き出された。
范の口から思わず声が漏れる。
〈そこ〉は范の知る宇宙ではなかった。(以下次回)
…………………… ………………………… ……………………
以下次回て……ちゃんと終結するのんか?
させるためにあえて載せる。
終結せんかったら?
あやまる(爆)。
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