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「原子力船むつ消失事件」
投稿者:管理人 投稿日:2014年 1月31日(金)21時16分20秒面白かった。この時期(70年代末〜80年代初頭)、著者はすでに『寝台特急殺人事件』(78)でトラベルミステリに手を染めていましたが、テレビドラマは「寝台特急〈ブルートレイン〉殺人事件」(79)、「消えた乗組員〈クルー〉」(80)、「終着駅〈ターミナル〉殺人事件」(81)の3本程度で、まだ出版社に骨抜きにされていなかったようですね。本書がそれを証明しているように思います。
トラベルミステリー作家になってしまう前は、遠征先へ向かう列車の中から巨人軍全選手を消失させてしまう『消えた巨人軍』のような、スケールの大きい、奇想天外なトリックですでに人気作家でした。本篇もその系列で、原子力船むつが、佐世保港のドックでの修理を終えて下北半島の母港に向かう途中、台風のさなか新潟沖で忽然と消失してしまう。折しも佐渡ヶ島の尖閣湾に大量の魚の死骸が浮かび上がり、ついで湾内の海水から人体に有害なレベルの放射線量が検出される。ひょっとしてむつは、この湾の海底に沈没しているのか? ところが政府は、高放射能を理由に、なかなか本腰を入れて海底を調査しない。
一方、長崎港のドックでは、見た目がむつとそっくりな大型船が建造され、むつの佐世保出港と同じ日に進水し、いずこへか出港していきます。この船の注文主は、アラブの国だった……!?
と、後半は、俄然国際謀略物語に、スケールアップします。とはいえパズラーであることにブレはない。ただスケールアップした分、やや強引に抑えこんでいて、前後関係から推測すれば、どう考えてもわずか数日で、アメリカから深海調査船が到着する感じだったり、同様に数日で、船がアラビア海まで行っていたりする計算になるのです。この瑕瑾は作者もわかっていて、後半は何月何日とか、事件から何日たった、と言った記述は皆無になります。姑息といえば姑息ですが、それを許容しなければこの壮大なパズルは完成しないので、仕方がありません。私は、面白かったので許容しますが、それではパズラーとして認められないという読者もいるかもしれません。
いずれにせよ、先回確認したように、現実の「時間線」に従えば、そもそもの最初から不運を背負い、何も良いことがないまま、何も成し遂げずに1993年原子炉を撤去され、「海洋地球研究船みらい」に看板を書き換えられてしまうことになる「むつ」ですが、この小説の時間線では、どうやら働き場所を見出すことができたようで、その意味では本書は、むつの鎮魂曲に、結果的になりえているかもしれません。もちろん、それがこの小説上の時間線のわが国にとって、良かったのかどうかは、また別の話です(汗)。
ということで、河合隼雄『無意識の構造』に着手。積読崩し本ですが、もくじをぱらぱら見ていたら、「グレートマザー」という項目があったので(^^;